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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)14784号 判決

主文

一  第一事件原告西山和江、同西山京子、同増野明美及び第二事件原告神山澄江の各主位的請求及び各予備的請求並びに第一事件原告西山章、同西山護、同増野康男、第二事件原告神山要蔵及び第三事件原告らの各請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、第一事件については同事件原告らの、第二事件については同事件原告らの、第三事件については同事件原告らの各負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

(第一事件について)

一  請求の趣旨

1 原告西山和江、同西山京子及び同増野明美

(一) 主位的請求

(1) 被告は、原告西山和江に対し四一八八万二八三九円、同西山京子に対し二一一九万三五五三円、同増野明美に対し二八一七万八〇八六円及びこれらに対する昭和六一年一〇月二一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を各支払え。

(2) 訴訟費用は被告の負担とする。

(3) 仮執行宣言

(二) 予備的請求

(1) 被告は、原告西山和江に対し六七五万円、同西山京子に対し九七五万円、同増野明美に対し五二五万円及びこれらに対する昭和六一年二月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。

(2) 訴訟費用は被告の負担とする。

(3) 仮執行宣言

2 原告西山章、同西山護及び同増野康男

(一) 被告は、原告西山章に対し五八〇万円、同西山護及び同増野康男に対しそれぞれ二〇〇万円並びにこれらに対する昭和六一年二月二四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を各支払え。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

(三) 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(第二事件について)

一  請求の趣旨

1 原告神山澄江

(一) 主位的請求

(1) 被告は原告神山澄江に対し九〇三万四四八六円及びこれに対する昭和六一年一一月一四日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

(2) 訴訟費用は被告の負担とする。

(3) 仮執行宣言

(二) 予備的請求

(1) 被告は原告神山澄江に対し五二五万円及びこれに対する昭和六一年二月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 訴訟費用は被告の負担とする。

(3) 仮執行宣言

2 原告神山要蔵

(一) 被告は原告神山要蔵に対し二四〇万円及びこれに対する昭和六一年二月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

(三) 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(第三事件について)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告高野喜代子に対し一一〇〇万円、同高木智子に対し三六〇万円及びこれらに対する昭和六一年二月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(第一事件及び第二事件原告らの主位的請求、第三事件原告らの請求)

一  請求原因

1  主催旅行契約の成立

被告は、旅行業法三条所定の登録を受けた一般旅行業者であるところ、昭和六一年一月ころ、同年二月二二日に羽田空港を出発し同月二六日に同空港に帰国する予定の「台湾全周5日間」と題し、台湾の観光を目的とする旅行(以下「本件旅行」という。)を企画・募集し、同年一月二二日、これに応募した訴外亡笠尾ヒズヱ(以下「ヒズヱ」という。)、原告西山和江(以下「原告和江」という。)、同西山京子(以下「原告京子」という。)、同増野明美(以下「原告明美」という。)、同神山澄江(以下「原告澄江」という。)、同高野喜代子(以下「原告高野」という。)及び同高木智子(以下「原告高木」という。)との間で、被告の定める旅行業約款(以下「本件約款」という。)に基づいて本件旅行についての主催旅行契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

2  事故の発生

本件旅行の途上である昭和六一年二月二四日午前七時五五分ころ、台湾の台中と日月潭との間を結ぶ中潭公路(以下「本件道路」という。)の日月潭から台中方面へ向かい約三八・五キロメートルの地点(以下「本件事故現場」という。)において、ヒズヱ及び前記原告らを含む本件旅行の参加者(以下「本件旅行者」という。)の乗車したバス(以下「本件バス」という。)が道路から逸脱して谷底に転落し、ヒズヱを含む八名が死亡し、前記原告らを含む八名が負傷した(以下「本件事故」という。)。

3  事故の状況

(一) 道路状況

本件事故現場付近における本件道路は、連続して湾曲し、かつ、道路右側が崖になっていたのにガードレールが設置されておらず、本件事故前にも車両の転落事故が多数回発生していた危険な道路であるうえ、本件事故当時は霧雨が降っていたため視界が悪く、かつ、路面はぬかるみ状態になっており、車両の通行には危険な状態であった。

(二) 本件バスの整備状況

本件バスは、窓ガラスにひびが入ったり、タイヤの溝がかなり摩耗していた等整備状況が悪く、右道路状況の下では安全な走行を期しがたい状態であった。

(三) 事故原因

バスの運転手は、連続して湾曲し、かつ、進行道路の片側が崖になっているのにガードレールが設置されていないような道路を、霧雨が降っているため視界が悪く、かつ、路面がぬかるみ状態になっているような状況の下でバスを運転するに当たっては、速度を控え目にし、前方を注視し、ハンドル操作を的確にして運転すべき注意義務があるところ、本件バスの運転手である訴外亡李瑞道(以下「李運転手」という。)は、前記道路状況の下にある本件事故現場付近の本件道路を走行するに際し、漫然と速度を出し、前方を注視せず、ハンドル操作を的確にしないで本件バスを運転した過失により本件事故を惹起させたものである。

4  被告の責任

(一) 旅客運送人としての責任

ヒズヱ及び前記原告らは、被告との間で、前記1のとおり本件契約を締結したが、右契約には本件旅行中のバス行程についての旅客運送契約が含まれており、被告は旅客運送人として本件事故によって生じた原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。すなわち、本件旅行中のバス行程についての旅客運送契約の締結に関して、ヒズヱ及び前記原告らは被告に代理権を付与したことはなく、ヒズヱ及び前記原告らの名義で右契約の締結をしたわけでもないから、ヒズヱ及び原告らと現地の運送機関との間で右契約が成立する余地はないのである。被告は、現地の運送機関を履行補助者として、右旅客運送契約を履行したのである。旅客運送契約においては旅客運送人において無過失であることを立証すべきであるから(商法五九〇条一項)、被告は本件事故の発生につき無過失であることの主張・立証責任を負うものというべきである。

(二) 主催旅行契約上の安全確保義務違反に基づく責任

(1) 主催旅行契約上の安全確保義務

旅行業法二条三項は、「主催旅行」とは、旅行業を営む者(以下「旅行業者」という。)が、あらかじめ、旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることができる運送又は宿泊のサービスの内容並びに旅行者が旅行業者に支払うべき対価に関する事項を定めた旅行に関する計画を作成し、これに参加する旅行者を広告その他の方法により募集して実施する旅行をいうと定義しているが、主催旅行契約の履行は、単に旅行を実施すれば足りるというものではなく、旅行者の生命・身体・財産の安全を確保することも、同契約の本質的な要素である。それは、旅行には常に何らかの事故の発生の危険性が高く、安全を確保するための配慮が不可欠であるところ、主催旅行契約においては、旅行業者が当該旅行行程の設定・管理、運送・宿泊サービス提供機関の選定等旅行の安全に係わることを包括的に支配しているからである。このため、同法一条は同法が旅行の安全の確保を図ることを目的としている旨を特に規定し、本件約款も、一八条において、旅行業者は、その主催した旅行の安全かつ円滑な実施を確保するために、〈1〉旅行者が旅行サービスを受けることができないおそれがあると認められるときには、主催旅行契約に従った旅行サービスの提供を受けられるために必要な措置を講じ、〈2〉契約内容を変更するときには、その変更の幅ができる限り小さくなるよう努力すべき義務を負う旨、一九条一項において、旅行業者は旅行の内容により添乗員を同行させて一八条に定める旅程管理の業務を行わせることがある旨、二〇条において、旅行者は、旅行中添乗員の誘導の下に団体で行動するときは、旅行を安全かつ円滑に実施するための添乗員の指示に従わなければならない旨、一六条一項において、旅行業者は、旅行者が旅行を安全かつ円滑に実施するための添乗員の指示に従わないなど団体行動の規律を乱し、当該旅行の安全かつ円滑な実施を妨げるときには、右旅行者との主催旅行契約を解除することがある旨を各規定している。したがって、主催旅行契約には、旅行業者において旅行中の旅行者の安全を確保すべき義務が当然に含まれていると解すべきであり、右義務の具体的内容は、後記(三)(2)(被告の過失)のとおり、〈1〉安全な旅行行程を設定すべき義務、〈2〉安全な運送サービス提供機関を選定すべき義務、〈3〉添乗員を同行させた場合に添乗員が旅行業者の履行補助者として当該旅行の具体的状況に応じて旅行者の安全を確保するため適切な指示をなすべき義務である。

(2) 被告の義務違反

本件旅行者は前記2のとおり本件旅行の途上において被告が手配した本件バスに乗車して本件事故に遭った。また、被告は添乗員として訴外亡小山潔(以下「小山」という。)を、被告の台湾における手配代行者であった訴外永泰旅行者股分有限公司(以下「訴外永泰」という。)はガイドとして訴外亡呉文彦(以下「呉」という。)をそれぞれ同行させていた。前記のとおり旅客運送契約においては旅客運送人において無過失であることを立証すべき旨規定されているから(商法五九〇条一項)、右規定との均衡及び債務不履行責任における主張・立証責任の原則からしても、前記安全確保義務については、被告において右義務の懈怠がなかったことを主張・立証しない限り、本件事故によって生じた原告らの後記損害を賠償すべき責任を免れない。

(三) 手配及び旅程管理上の過失に基づく責任

(1) 約款の規定

本件約款二一条一項本文には、主催旅行契約の履行に当たって、被告又は被告の手配代行者が故意又は過失により旅行者に損害を与えたときは、その損害を賠償する責任を負う旨の規定がある。

(2) 被告の過失

被告は、本件契約の履行に当たり、左記の過失によって本件事故を発生させたから、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

(イ) 旅行行程設定上の過失

被告は、本件旅行の実施に先立って、旅行行程中の道路状況の確認及び所要時間の検討等をして安全な旅行行程を設定すべき注意義務を負担していたにもかかわらず、前記のように連続して湾曲し、かつ、道路右側が崖になっているのにガードレールが設置されていないような危険な本件事故現場をバスで通行する行程を設定した。また、本件旅行行程のバス行程の所要時間については、途中のみやげ物店に多数回立ち寄らせる設定をしたため、ある観光場所から次の観光場所へ移動するための予定時間が最少限度に制限され、右予定時間を守るために運転手において速度違反等の無理な運転をせざるをえないような状況であった。このため、李運転手は、右のように危険な本件事故現場を予定時間を守ろうとして、前記のように漫然と速度を出して本件バスを運転し、本件事故を発生させたものである。

(ロ) 運送サービス提供機関選定上の過失

被告は、安全な運送サービス提供機関を選定すべき注意義務を負担していたところ、被告の台湾における手配代行者であった訴外永泰を通じて訴外来福通運有限公司(以下「訴外来福」という。)に本件旅行のバス行程の運行を手配していたが、訴外来福は被告及び訴外永泰に無断で訴外書華交通企業有限公司(以下「訴外書華」という。)に右運行を下請けさせたため、前記のとおりタイヤが摩耗した本件バスが配車され、李運転手が右運行を担当することとなった。本件バスのようにタイヤが摩耗したバスでは、また、李運転手の運転のように漫然と速度を出し、前方を注視しないような運転では前記のように連続して湾曲し、かつ、道路右側が崖になっているのにガードレールが設置されていないような危険な本件事故現場を安全に走行することは困難であって、そのため本件事故が発生した。

(ハ) 添乗員の過失

前記本件約款一八条、一九条一項、二〇条及び一六条一項によれば、添乗員は旅行業者の安全確保義務の履行補助者として当該旅行の具体的状況に応じて旅行者の安全を確保するため適切な指示をすべき義務を負っている。例えば、現地でのバス運行に関し、道路状況が悪かったり、当該バスのタイヤが摩耗していたり、雨のため視界が悪いのに運転手がスピードを出し過ぎている等危険な事態が生じた場合には、添乗員は、旅行行程の変更、タイヤ又はバス自体の交換要求、運転手に対する安全運転の注意・指導等をすべき義務がある。本件旅行において、被告が添乗員として小山を、訴外永泰がガイドとして呉をそれぞれ同行させていたことは、前記のとおりである。右小山及び呉は、前記本件道路の状況、本件バスの整備状況及び李運転手の運転状況からすれば、旅行行程の変更、タイヤ又はバス自体の交換要求、李運転手に対する安全運転の注意・指導を行うべきであったのに、何らの安全確保の手段を採らず漫然と放置していたため、本件事故が発生したものである。

5  受傷状況及び損害

(一) ヒズヱについて

(1) 受傷状況

ヒズヱは本件事故により昭和六一年二月二四日死亡した。

(2) 損害 合計二四七六万九〇二六円

(イ) 携帯品 一〇〇万円

ヒズヱは、本件事故により現金二〇万円以上を紛失し、八〇万円相当の携帯品を滅失・紛失して合計一〇〇万円の損害を被った。

(ロ) 逸失利益 一八九一万九〇二六円

ヒズヱは、本件事故当時満七二歳の健康な女子で、不動産業を営み、昭和六〇年には年額四六七万一一三四円の収入を得ていたものであるから、本件事故に遭遇しなければ少なくとも満七九歳まで七年間稼働して年額平均四六七万一一三四円の収入を得られたはずのところ、本件事故により右得べかりし収入をすべて失った。そこで、三〇パーセントの生活費控除及びライプニッツ式計算法による年五分の割合による中間利息の控除を行って、同女の死亡時における逸失利益の現価を算定すると、一八九一万九〇二六円となる。

(ハ) 慰藉料 二〇〇〇万円

本件事故の原因、死亡に伴う苦痛及び死亡した場所が異境の地であること等を考慮すると、ヒズヱの死亡慰藉料は二〇〇〇万円が相当である。

(ニ) 相続

原告和江、同京子及び同明美は、いずれもヒズヱの子であり、他にヒズヱの相続人はいないから、ヒズヱの権利義務を法定相続分に従い各三分の一の割合(各一三三〇万六三四二円)で相続により取得した。

(ホ) 損害の填補 一五一五万円

原告和江、同京子及び同明美は、被告から本件約款二二条の特別補償規程(以下「本件特別補償規程」という。)に基づきヒズヱの携帯品損害補償金一五万円、死亡補償金一五〇〇万円の支払いを受けたので、これを法定相続分に応じて(各五〇五万円)同原告らの前記損害に填補した。

(二) 原告和江について

(1) 受傷状況

原告和江は、本件事故により右大腿骨粉砕骨折、第一・第四・第五腰椎圧迫骨折等の傷害を受け、昭和六一年二月二四日から同年九月一三日まで及び昭和六二年一月一六日から同年六月六日まで合計三四四日入院し、その後も通院治療を継続したが、後遺障害として腰椎の変形、骨移植のため骨盤の変形、跛行、右膝の軽度の運動制限、右大腿部(瘢痕の長さ約三七センチメートル)、右臀部及び腰に手術創の瘢痕が残り、日常生活上の影響として車椅子の使用を余儀なくされ、正座することもできない状態が続いている。右症状は本件訴訟の提起時である昭和六一年九月二五日以後改善していないから、同日をもって症状固定日とみるべきである。

(2) 損害 合計三三六二万六四九七円

(イ) 携帯品 四八万五〇〇〇円

原告和江は、本件事故により現金三〇万円を紛失し、三三万五〇〇〇円相当の携帯品を滅失・紛失して合計六三万五〇〇〇円の損害を被ったが、被告から本件特別補償規程に基づき携帯品損害補償金一五万円の支払を受けた。

(ロ) 入院雑費 一一万三〇〇〇円

原告和江は、入院雑費として一一万三〇〇〇円支出し、相当額の損害を被った。

(ハ) 交通費 二九万五〇〇〇円

原告和江は、通院交通費及び看護のための近親者の交通費として合計二九万五〇〇〇円を支出して、相当額の損害を被った。

(ニ) 休業損害 二九一万四四二一円

原告和江は、昭和一八年四月一八日生まれの主婦であるところ、本件事故のため、本件事故発生日の昭和六一年二月二四日から最終入院日である昭和六二年六月六日まで家事に従事することができなくなったところ、右損害は、基礎収入を年額平均二二七万三〇〇〇円として計算するのが相当であるから、二九一万四四二一円となる。

(ホ) 逸失利益 一八八一万九〇七六円

原告和江は前記後遺障害のために将来にわたり逸失利益相当の損害を被ったものであるところ、その労働能力喪失率は六〇パーセントとみるべきであり、右算定の基礎収入として年額平均二二七万三〇〇〇円を採用し、就労可能年数は二四年と考えるべきであるから、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると、一八八一万九〇七六円となる。

(ヘ) 慰藉料 一一〇〇万円

原告和江は前記傷害の治療のために入通院することを余儀なくされたが、その間に被った精神的苦痛に対する慰藉料としては三〇〇万円、前記後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰藉料としては八〇〇万円の合計一一〇〇万円が相当である。

(三) 原告京子について

(1) 受傷状況

原告京子は、本件事故により右鎖骨骨折、骨盤骨折等の傷害を受け、昭和六一年二月二四日から同年四月二二日まで約二か月入院し、その後も通院治療を継続したが、後遺障害として右鎖骨偽関節、右肩周辺の疼痛及び圧痛、右肩部に長さ約七センチメートルの手術創の瘢痕が残り、日常生活上の影響として右腕を上げることができない状態が続いている。右症状は本件訴訟の提起時である昭和六一年九月二五日以後改善していないから、同日をもって症状固定日とみるべきである。

(2) 損害 合計一二九三万七二一一円

(イ) 携帯品 二八万円

原告京子は本件事故により四三万円相当の携帯品を滅失・紛失して相当額の損害を被ったが、被告から本件特別補償規程に基づき携帯品損害補償金一五万円の支払を受けた。

(ロ) 治療費 一六万一八八〇円

原告京子は、治療費として一六万一八八〇円(ただし、保険等で填補されない金額)を支出して、相当額の損害を被った。

(ハ) 治療器具購入費 三五〇〇円

原告京子は、治療器具購入費として三五〇〇円(ただし、保険等で填補されない金額)を支出して、相当額の損害を被った。

(ニ) 医師及び看護婦に対する謝礼 七万五〇〇〇円

原告京子は、医師及び看護婦に対する謝礼として七万五〇〇〇円を支出して、相当額の損害を被った。

(ホ) 交通費 四二万三四六〇円

原告京子は、通院交通費及び看護のための近親者の交通費として合計四二万三四六〇円を支出して、相当額の損害を被った。

(ヘ) 通信費 二万二八〇〇円

原告京子は、通信費として二万二八〇〇円を支出して、相当額の損害を被った。

(ト) 休業損害 一八九万四七五〇円

原告京子は、昭和二〇年四月二一日生まれの主婦であるところ、本件事故のため、本件事故発生日の昭和六一年二月二四日から二か月間家事に従事することができなくなったところ、右損害は、基礎収入を年額平均二二七万三七〇〇円として計算するのが相当であるから、一八九万四七五〇円となる。

(チ) 逸失利益 四五七万五八二一円

原告京子は前記後遺障害のために将来にわたり逸失利益相当の損害を被ったものであるところ、その労働能力喪失率は一四パーセントとみるべきであり、右算定の基礎収入として年額平均二二七万三七〇〇円を採用し、就労可能年数は二六年と考えるべきであるから、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると、四五七万五八二一円となる。

(リ) 慰藉料 五五〇万円

原告京子は前記傷害の治療のために入通院することを余儀なくされたが、その間に被った精神的苦痛に対する慰藉料としては二五〇万円、前記後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰藉料としては三〇〇万円の合計五五〇万円が相当である。

(三) 原告明美について

(1) 受傷状況

原告明美は、本件事故により右大腿骨骨折、第三頸骨脱臼骨折等の傷害を受け、昭和六一年二月二四日から同年六月一七日まで約四か月間入院し、その後も通院治療を継続したが、後遺障害として頸椎の運動障害、頸部の知覚鈍麻、右股関節の機能障害、右下肢について約二・五センチメートルの短縮、墜下性跛行、左前頸部(瘢痕の長さ約八センチメートル)・右大腿外側(瘢痕の長さ約二〇センチメートル)・大転子部(瘢痕の長さ約五センチメートル)に手術創の瘢痕が残り、日常生活上の影響として長時間の起立作業及び正座ができず、首の痛み、肩凝り、息切れ、疲労感に悩まされる状態が続いている。右症状は本件訴訟の提起時である昭和六一年九月二五日以後改善していないから、同日をもって症状固定日とみるべきである。

(2) 損害 合計一九九二万一七四四円

(イ) 携帯品 三三万三〇〇〇円

原告明美は、本件事故により現金一五万円を紛失し、三三万三〇〇〇円相当の携帯品を滅失・紛失して合計四八万三〇〇〇円の損害を被ったが、被告から本件特別補償規程に基づき携帯品損害補償金一五万円の支払を受けた。

(ロ) 治療費 七四万九九一五円

原告明美は、治療費として七四万九九一五円(ただし、保険等で填補されない金額)を支出して、相当額の損害を被った。

(ハ) 入院雑費 一〇万円

原告明美は、入院雑費として一〇万円を支出して、相当額の損害を被った。

(ニ) 医師及び看護婦に対する謝礼 二○万円

原告明美は、医師及び看護婦に対する謝礼として二〇万円を支出して、相当額の損害を被った。

(ホ) 交通費 一三万二八〇〇円

原告明美は、通院交通費及び看護のための近親者の交通費として合計一三万二八〇〇円を支出して、相当額の損害を被った。

(ヘ) 通信費 六万九一七〇円

原告明美は、通信費として六万九一七〇円を支出して、相当額の損害を被った。

(ト) 治療器具購入費 一万〇二〇〇円

原告明美は、治療器具購入費として一万〇二〇〇円(ただし、保険等で填補されない金額)を支出して、相当額の損害を被った。

(チ) 付添費 四〇万円

原告明美は、付添費として四〇万円を支出して、相当額の損害を被った。

(リ) 逸失利益 一一四二万六六五九円

原告明美は、昭和二五年一月二二日生まれで、本件事故当時公務員として勤務していたが、前記後遺障害のために将来にわたり逸失利益相当の損害を被ったものであるところ、その労働能力喪失率は二〇パーセントとみるべきであり、右算定の基礎収入として昭和六〇年の年収三六六万四〇三五円を採用し、就労可能年数は三一年と考えるべきであるから、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると、一一四二万六六五九円となる。

(ヌ) 慰藉料 六五〇万円

原告明美は前記傷害の治療のために入通院することを余儀なくされたが、その間に被った精神的苦痛に対する慰藉料としては三〇〇万円、前記後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰籍料としては三五〇万円の合計六五〇万円が相当である。

(四) 原告澄江について

(1) 受傷状況

原告澄江は、本件事故により頭部挫創、頸椎捻挫、全身打撲、右第七ないし第九肋骨骨折等の傷害を受け、昭和六一年二月二四日から同年五月一一日まで約三か月入院し、その後も通院治療を継続した結果、同年一〇月末日に症状が固定したが、後遺障害として右尺骨神経領域の神経麻痺、握力の低下、右肩関節痛、右腕及び右手の痛みとしびれが残った。

(2) 損害 合計九〇三万四四八六円

(イ) 携帯品 三一万二四〇〇円

原告澄江は、本件事故により、三一万五四〇〇円相当の携帯品の滅失・紛失して相当額の損害を被ったが、被告から本件特別補償規程に基づき携帯品損害補償金三〇〇〇円の支払を受けた。

(ロ) 治療費 一七万四六五七円

原告澄江は、治療費として一七万四六五七円(ただし、保険等で填補されない金額)を支出して、相当額の損害を被った。

(ハ) 交通費 一三万四八六〇円

原告澄江は、通院交通費として一三万四八六〇円を支出して、相当額の損害を被った。

(ニ) 入院雑費 一万三五一九円

原告澄江は、入院雑費として一万三五一九円を支出して、相当額の損害を被った。

(ホ) 休業損害 一五六万四二〇〇円

原告澄江は、昭和三年一月一〇日生まれの主婦であるところ、本件事故のため、本件事故発生日の昭和六一年二月二四日から八か月間家事に従事することができなくなったところ、右損害は、基礎収入を年額平均二三四万六三〇〇円として計算するのが相当であるから、一五六万四二〇〇円となる。

(ヘ) 逸失利益 二三三万四八五〇円

原告澄江は前記後遺障害のために将来にわたり逸失利益相当の損害を被ったものであるところ、その労働能力喪失率は一四パーセントとみるべきであり、右算定の基礎収入として年額平均二三四万六三〇〇円を採用し、就労可能年数は二六年と考えるべきであるから、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると、二三三万四八五〇円となる。

(ト) 慰藉料 四五〇万円

原告澄江は前記傷害の治療のために入通院することを余儀なくされたが、その間に被った精神的苦痛に対する慰藉科としては二〇〇万円、前記後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰藉料としては二五〇万円の合計四五〇万円が相当である。

(五) 原告高野について

(1) 受傷状況

原告高野は、本件事故により右手首下端骨折、頭部外傷性頭皮難治性潰瘍、眼球打撲等の傷害を受け、昭和六一年二月二四日から同年三月一二日まで一七日間台湾の佑民病院に入院し、同日帰国して同年六月三日まで八三日間至誠会第二病院に入院し、同年一二月三〇日まで同病院に通院し(通院実日数九〇日)、同年八月一日から同年九月一〇日まで四〇日間温泉病院でリハビリテーションを受けたが、後遺障害として右手首の機能障害、歩行障害、全身痛等が残ったほか、将来頭蓋骨の形成手術を必要とする状況である。

(2) 損害 合計一一〇六万〇一五六円

(イ) 治療費 八九万円

原告高野は、治療費として八九万円(ただし、保険等で填補されない金額)を支出して、相当額の損害を被った。

(ロ) 入院付添費 四三万円

原告高野は前記の入院中付添看護を要する状態であったので、佑民病院での入院期間については近親者が二人、至誠会第二病院での入院期間のうち当初の二〇日については近親者が一人付き添って看護した。近親者の入院付添費は一人一日当たり、佑民病院分につき一万円、至誠会第二病院分につき四五〇〇円とするのが相当である。

(ハ) 入院雑費 一六万八〇〇〇円

原告高野の前記入院中の雑費は一日当たり、佑民病院分につき五〇〇〇円、至誠会第二病院分につき一〇〇〇円とするのが相当である。

(ニ) 交通費 二〇万九七〇〇円

原告高野は、通院交通費として二〇万九七〇〇円を支出して、相当額の損害を被った。

(ホ) 医師に対する謝礼 二五万円

原告高野は、医師に対する謝礼として二五万円を支出して、相当額の損害を被った。

(ヘ) 休業損害及び逸失利益 五六一万二四五六円

原告高野は、訴外旭鮨総本店株式会社の代表取締役として勤務し、月額七〇万円の給与を得ていたが、本件事故のため、本件事故発生日の昭和六一年二月二四日から同年九月一〇日まで休業を余儀なくされ、その間四五六万二四五六円の給与の支払を受けることができず、また、同月一一日から同年一二月一〇日までは従前の五割の労働しかできなくなり、その間一〇五万円の給与の支払を受けることができず、合計五六一万二四五六円の損害を被った。

(ト) 慰藉料 三五〇万円

原告高野の前記傷害の治療のために入通院することを余儀なくされたこと及び前記後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰藉料としては合計三五〇万円が相当である。

(六) 原告高木について

(1) 受傷状況

原告高木は、本件事故により左肋骨骨折、腰部・両膝打撲の傷害を受け、昭和六一年二月二四日から同年三月一二日まで一七日間台湾の佑民病院に入院し、同日帰国して同月二九日まで一七日間至誠会第二病院に、同月三〇日から同年四月三〇日まで三一日間一宮温泉病院に各入院し、同年五月一日から一二月三〇日まで至誠会第二病院に通院して(通院実日数五三日)治療を受けたが、後遺障害として腰痛の症状が残った。

(2) 損害 合計三六六万八六〇〇円

(イ) 治療費 四万五〇〇〇円

原告高木は、治療費として四万五〇〇〇円(ただし、保険等で填補されない金額)を支出して、相当額の損害を被った。

(ロ) 入院付添費 一七万円

原告高木は佑民病院での入院中付添看護を要する状態であったので、近親者が一人付き添って看護した。近親者の入院付添費は一日当たり一万円とするのが相当である。

(ハ) 入院雑費 一六万四〇〇〇円

原告高木の前記入院中の雑費は一日当たり、佑民病院分につき五〇〇〇円、至誠会第二病院分につき一〇〇〇円、一宮温泉病院分につき二〇〇〇円とするのが相当である。

(ニ) 交通費 七万九六〇〇円

原告高木は、通院交通費として七万九六〇〇円を支出して、相当額の損害を被った。

(ホ) 休業損害 一四一万円

原告高木は、訴外旭鮨総本店株式会社の従業員として勤務し、月額三四万四〇〇〇円の給与を得ていたが、本件事故のため、本件事故発生日の昭和六一年二月二四日から同年六月一〇日まで休業を余儀なくされ、その間一二一万円の給与の支払を受けることができず、また、右休業のため賞与から二〇万円を減額され、合計一四一万円の損害を被った。

(ヘ) 慰藉料 一八〇万円

原告高木の前記傷害の治療のために入通院することを余儀なくされたこと及び前記後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰藉料としては合計一八〇万円が相当である。

(七) 原告章の損害 合計五八〇万円

(1) 葬儀費用 一八〇万円

原告章はヒズヱの葬儀費用一八〇万円を支払った。

(2) 慰藉料 二〇〇万円

原告章は、原告和江の夫であり、同原告が被った前記傷害によって精神的苦痛を受けたが、その慰藉料としては二〇〇万円が相当である。

(3) 弁護士費用 二〇〇万円

原告章は、本件訴訟の弁護士費用として二〇〇万円を負担する旨を原告ら代理人との間で約束した。

(八) 原告護の損害 二〇〇万円

原告護は、原告京子の夫であり、同原告が被った前記傷害によって精神的苦痛を受けたが、その慰藉料としては二〇〇万円が相当である。

(九) 原告康男の損害 二〇〇万円

原告康男は、原告明美の夫であり、同原告が被った前記傷害によって精神的苦痛を受けたが、その慰藉料としては二〇〇万円が相当である。

(一〇) 原告要蔵の損害 合計二四〇万円

(1) 慰藉料 二〇〇万円

原告要蔵は、原告澄江の夫であり、同原告が被った前記傷害によって精神的苦痛を受けたが、その慰藉料としては二〇〇万円が相当である。

(2) 弁護士費用 四〇万円

原告要蔵は、本件訴訟の弁護士費用として四〇万円を負担する旨を原告ら代理人との間で約束した。

6  よって、原告和江、同京子、同明美、同澄江、同高野及び同高木は被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、原告和江につき四一八八万二八三九円、同京子につき二一一九万三五五三円、同明美につき二八一七万八〇八六円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年一〇月二一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の、原告澄江につき九〇三万四四八六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年一一月一四日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の、原告高野につき前記損害合計一一〇六万〇一五六円のうち一一〇〇万円、同高木につき前記損害合計三六六万八六〇〇円のうち三六〇万円及びこれらに対する本件債務不履行の日である昭和六一年二月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を、原告章、同護、同康男及び同要蔵は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として原告章につき五八〇万円、同護につき二〇〇万円、同康男につき二〇〇万円、同要蔵につき二四〇万円及びこれらに対する本件不法行為の日である昭和六一年二月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(主催旅行契約の成立)の事実は認める。

2  同2(事故の発生)の事実は認める。

3  同3(事故の状況)の(一)(道路状況)の事実のうち、本件事故現場付近における本件道路が連続して湾曲していたこと、道路右側が崖になっていたこと、ガードレールが設置されていなかったこと、本件事故前の二年間に車両の転落事故が二度発生したこと、本件事故当時は霧雨が降っていたこと、視界が良好ではなかったこと、路面がぬかるみ状態になっていたことは認めるが、その余の事実は否認する。本件事故当時本件事故現場を通る定期路線バス等は平常どおり運行されていたのであって、車両の通行に問題がある状況ではなかった。同(二)(本件バスの整備状況)の事実は否認する。本件バスは、一九八二年型の西ドイツのベンツ社製の四五人乗り大型観光バスであって、台湾の法令による日本の車検に相当する手続きを済ませていた。同(三)(事故原因)のうち、李運転手に原告ら主張の注意義務があること、本件事故が李運転手のハンドル操作不適当の過失によって発生したことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同4(責任原因)について

(一) 同4(一)(旅客運送人としての責任)の事実のうち、本件契約を締結したこと、現地運送機関の手配に際して本件旅行者の個人名は通知していなかったことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) 同4(二)(主催旅行契約上の安全確保義務違反に基づく責任)(1)(主催旅行契約の性質)のうち、旅行業法及び本件約款に原告主張のとおりの規定があること、被告が一定限度で原告ら主張の安全確保義務を負担していたことは認めるが、その余の主張は争う。同(2)(被告の義務違反)のうち、被告が手配した本件バスに本件旅行者が乗車中に本件事故が発生したこと、被告が添乗員として小山を、訴外永泰がガイドとして呉をそれぞれ同行させていたことは認めるが、その余の主張は争う。

(三) 同4(三)(手配及び旅程管理上の過失に基づく責任)(1)(約款の規定)は認める。同(2)(被告の過失)(イ)(旅行ルート設定上の過失)の事実のうち、被告が原告ら主張の注意義務を負担していたこと、本件事故現場付近の道路状況が原告ら主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。同(2)(ロ)(運送サービス提供機関選定上の過失)の事実のうち、被告が一定限度で原告ら主張の注意義務を負担していたこと、運送サービス提供機関選定の経緯が原告らの主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。同(2)(ハ)(添乗員の過失)の事実のうち、添乗員が被告の履行補助者として一定限度で原告ら主張の注意義務を負担していたこと、被告が添乗員として小山を、訴外永泰がガイドとして呉をそれぞれ同行させていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

5  同5(損害)の事実のうち、ヒズヱが本件事故により死亡したこと、(一)(ヒズヱについて)(2)(損害)の(ニ)(相続)及び(ホ)損害の填補の各事実、原告和江、同京子、同明美、同澄江、同高野及び同高木の各受傷及び後遺障害の内容は認めるが、その余の事実は不知ないし争う。

三  被告の主張

1  約款上の免責

(一) 本件約款制定の経緯

旅行業法一二条の二は、一般旅行業者又は国内旅行業者は、旅行者と締結する旅行業務の取扱いに関する契約に関し、旅行業約款を定め、運輸大臣の認可を受けるべきこと、旅行業者は定めた約款を営業所において旅行者に見やすいように掲示し、又は旅行者が閲覧することができるように備置すべきことを定め、同法一二条の三は、一般旅行業者又は国内旅行業者が、運輸大臣が定めて公示した標準旅行業約款と同一の旅行業約款を定めたときは運輸大臣の認可を受けたものとみなす旨定めている。被告は、運輸大臣が定めて公示した標準旅行業約款(昭和五八年運輸省告示第五九号)と同一の本件約款を昭和五八年四月一日定め、これを各営業所に掲示し、かつ、印刷物として旅行者がいつでも閲覧できるよう備置していたものである。運輸大臣が認可し、又は認可したとみなされる旅行業約款は、旅行契約の条件を定めるものである。したがって、本件旅行には、被告の定める本件約款が適用される。

(二) 本件約款における被告の責任

(1) 本件約款三条によれば、被告は、主催旅行契約において、旅行者のために代理して契約を締結し、契約の成立について媒介をし、又は取次をするなどにより、旅行者が被告の定める旅行日程に従って運送・宿泊機関等の提供する運送、宿泊その他の旅行に関するサービスの提供を受けることができるように、手配することを引き受けるが、自ら旅行サービスを提供することを引き受けるものではない旨が規定されている。また、同約款四条によれば、被告は、主催旅行契約の履行に当たって、手配の全部又は一部を本邦内又は本邦外の手配代行者に代行させることがある旨規定されている。さらに、同約款二一条一項によれば、被告は、主催旅行契約の履行に当って、自ら又は被告の手配代行者が故意又は過失により旅行者に損害を与えたときは、その損害を賠償する責任を負うが、同条二項によれば、旅行者が被告又はその手配代行者の管理外の事由により損害を被ったときは、被告又はその手配代行者の故意又は過失が証明されたときを除き、被告はその損害を賠償すべき責任を負わないとし、同項一号ないし七号には右管理外の事由として、〈1〉天災地変、戦乱、暴動又はこれらのために生ずる旅行日程の変更若しくは旅行の中止、〈2〉運送・宿泊機関の事故若しくは火災又はこれらのために生ずる旅行日程の変更若しくは旅行の中止、〈3〉日本又は外国の官公署の命令、外国の出入国規制又は伝染病による隔離、〈4〉自由行動中の事故、〈5〉食中毒、〈6〉盗難、〈7〉運送機関の遅延、運送機関の不通又はこれらによって生ずる旅行日程の変更若しくは目的地滞在時間の短縮を例示している。すなわち、本件約款上、被告は、運送機関の提供する運送サービスの提供の手配を引き受けてはいるが、自ら運送サービスの提供を引き受けているわけではないのである。

(2) 原告らは、被告が旅客運送人となり、あるいは、被告の委託した運送機関の行為は被告自身の行為と評価されるべきものであると主張しているが、旅客運送契約は利用者と運送機関との間に成立し、また、運送機関は被告とは全く独立した存在であり、被告の履行補助者ではないのである。したがって、運送サービスの提供の手配について被告又は被告の手配代行者に故意又は過失があり、それによって事故が発生したのではない限り、運送機関の事故について被告は損害賠償責任を負わず、旅行者は運送機関に対してのみ損害賠償請求をなすべきこととなっているのである。そのため、本件約款二二条は、被告に損害賠償責任が生ずるか否かを問わず、特別補償規定で定めるところにより、旅行者が主催旅行参加中にその生命、身体又は手荷物の上に被った一定の損害について、海外旅行における死亡の場合には一五〇〇万円の死亡補償金、傷害の場合には、後遺障害の程度に応じて最高一五〇〇万円の後遺障害補償金及び入院期間に応じて入院見舞金等を支払う旨を規定して、旅行者の保護を図っているのである。

(3) 旅行業法一二条の一〇は主催旅行の円滑な実施のための措置として、旅行者に対する運送又は宿泊の確実な提供、旅行に関する計画の変更を必要とする事由が生じた場合における代替サービスの手配その他の当該主催旅行の円滑な実施を確保するため運輸省令で定める措置を講ずることを旅行業者に命じ、これを受けて旅行業法施行規則三二条は旅程管理のための措置を定めている。ここで定められているのは、いずれも旅行サービスが確実に受けられるようにするための措置であって、事故発生予防措置とか、事故発生の際の旅行業者の責任にかかわるものでは全くない。また、本件約款一八条は、被告が旅行者の安全かつ円滑な旅行の実施を確保するための一定の措置を講ずることを規定しているが、右規定は旅行日程どおり旅行ができるよう、また旅行日程の変更等が余儀なくされるような現地事情が生じたときにも当初の旅行日程の趣旨にかない、当初の旅行サービスと同様の旅行サービスが受けられるよう、旅行契約の内容の変更を最小限にとどめるような努力をすることを被告において約束するものに過ぎない。なお、同約款一九条及び二〇条に規定する添乗員の義務も、右の義務に尽きるのである。

(4) 主催旅行契約の構造が以上のようなものであることから、被告は、主催旅行契約について、本件約款二一条一項により、自ら又は被告の手配代行者が故意又は過失によって旅行者に損害を与えたときにのみ賠償責任を負うとされているが、この故意又は過失は手配及び旅程管理についての故意又は過失であり、また、同条二項により、右の故意又は過失の主張・立証責任が旅行者側にあることは明らかである。

2  手配及び旅程管理上の過失に基づく責任について

(一) 旅行行程の設定について

被告は、本件旅行と同じ日程の主催旅行を昭和五九年九月から定期的に企画・募集していたが、本件旅行行程の立案・設定に当たって、被告の従業員三名を現地に派遣して、旅行行程中の道路状況の確認及び所要時間の検討等を現実に行い、道路状況が安全上何らの問題もないことを確認して、本件道路を含む旅行行程を確定したものである。台湾では、日月潭は著名な観光地であり、台湾全周をうたった本件旅行からこれを外すことは考えられないものであるところ、日月潭が山間部に存するために同所に至る行程の選択は極めて限られており、被告を初めとして日本及び各国の旅行業者が計画・実施している台湾旅行は、そのほとんどが本件道路をバスで通行する旅程となっている。そして、本件道路は、交通の頻繁な幹線道路であり、本件バス以外にも一日に上下合わせて約二二〇本もの官営及び民営の定期路線バスが運行されているのであるから、この点からも、本件道路を旅行行程として選定した被告の行為に過失のないことが明らかである。また、みやげ物店に立ち寄る回数も必要最少限度に制限しており、バスの運行に影響を与えるような設定はしていなかった。

(二) 運送サービス提供機関の選定について

運送サービス提供機関の選定について旅行業者が負う義務は、旅行先の国における法令上資格ある運送サービス提供機関と運転手とを手配し、かつ、法令上運行を認められたバス等を使用させることに尽きる。被告は台湾内の旅行手配を本件約款四条により訴外永泰に全部代行させていたものであるが、本件旅行については訴外永泰が訴外来福に本件旅行のためにバスを手配したところ、訴外来福が専属下請的に用いている訴外書華のバスを配車し、これにより訴外書華及び李運転手が本件旅行のバス行程部分を担当することとなった。台湾の手配代行者を通じて運送会社にバス運送を依頼した場合、台湾においては、その運送会社が手配代行者に通知することなく常日頃下請け的に用いている他の運送会社のバスを配車することが広く慣行的に行われており、訴外来福が訴外永泰に連絡することなく訴外書華のバスを配車したことも右慣行によるものであって手配上問題はない。そして、訴外書華は高雄市から大型バス貸出業の営業許可を受けており、李運転手は、職業運転手の免許を有するとともに、高雄市汽車職業運転手組合にも所属し、大型バスを運転する資格を有しており、本件事故前の勤務状態も良好であり、事故を起こしたことはなかった。また、本件バスは前記のとおり安全上問題のないバスであった。したがって、本件旅行において訴外書華及び李運転手が選定されたことについて、被告及び訴外永泰には何らの過失がない。

(三) 添乗員の過失について

バスに添乗する添乗員の注意義務は、一見して危険とわかるバス等の使用をさせないこと、運転手が現地の交通法令及び交通の状況に照らし一見して危険とわかる運転、例えば酩酊運転、明らかなスピード違反運転又は乱暴運転等を防止すること、台風や豪雨等一見して危険とわかる天候となった場合に、旅程の変更、その他の適切な措置を採ることに尽きる。本件バスの整備状況及び李運転手の運転状況には何らの異常もなく、本件事故当時の天候は霧雨が降っていたものの、他の定期路線バス等も平常どおり運行していた。また、本件事故は、旅行の三日目の朝日月潭を出発してから約一時間後に発生したものであった。したがって、被告の添乗員小山及び永泰のガイド呉が本件バスの安全に不安を持つような状況は何らなかった。

3  損害の填補

被告は、原告らが自認しているもの以外に、本件特別補償規程に基づく補償金として、原告和江に対し四五万円、同京子に対し六〇万円、同明美に対し二五五万円、同澄江に対し六〇万円それぞれ支払った。被告が原告らに対して本件事故に基づく損害賠償責任を負う場合には、右各支払は被告が負担すべき損害賠償の支払とみなされるものである。

四  被告の主張に対する原告らの認否

1  被告の主張1(約款による免責)

(一)(本件約款制定の経緯)の事実は認める。同(二)(本件約款における被告の責任)の事実のうち、旅行業法及び本件約款等に被告主張の各規定があることは認めるが、その解釈については争う。同法一二条の五は、旅行業者が自ら旅行サービスを提供する場合のあることを規定しており、旅行業者が自ら旅行サービスを提供する場合はないという被告の主張は、同規定に矛盾するものである。本件約款三条は運送等の事実行為自体を被告が直接行うことのないことを注意的に規定したものである。旅客運送契約が旅行者と運送機関との間に成立するという被告の主張は、実態を無視したものである。旅行者は、旅行業者に対し一括して旅行代金を支払っているだけで、旅行業者が現地のバスによる運行をどのような運送機関に依頼したかは全く知らされていないから、旅客運送契約は旅行者と被告との間で成立し、現地の運送機関は被告の履行補助者と解すべきである。

2  同2(被告の責任について)

(一)(旅行ルートの設定について)の事実のうち、本件事故現場付近の道路が安全上問題のない道路であることは否認し、その余の事実は不知。同(二)(運送サービス提供機関の選定について)事実のうち、本件バスの配車の経緯が被告主張のとおりであることは認め、本件バスが安全上何ら問題もなかったバスであることは否認する。運送サービス提供機関選定における被告の注意義務の内容についての主張は争い、その余の事実は不知。同(三)(添乗員の過失について)の事実のうち、本件事故の発生した時間は認めるが、その余の事実は否認し、添乗員の注意義務の内容は争う。

3  同3(損害の填補)の事実は認める。

(第一事件及び第二事件原告らの予備的請求)

一  請求原因

1  主催旅行契約の成立

主位的請求原因1と同旨

2  事故の発生

主位的請求原因2と同旨

3  本件特別補償規程

本件約款二二条一項によれば、被告は、同約款二一条一項の規定に基づく責任が生ずるか否かを問わず、本件特別補償規程で定めるところにより、旅行者が主催旅行参加中にその生命、身体又は手荷物の上に被った一定の損害について、あらかじめ定める額の補償金及び見舞金を支払う旨が規定されており、同規程の六条及び七条によれば、後遺障害が生じた場合には、補償金額(海外旅行の場合一五〇〇万円)に後遺障害の程度に応じて同規程の別表第二(以下「別表第二」という。)に定める割合を乗じた金額を後遺障害補償金として支払う旨及び同一事故により二種以上の後遺障害が生じた場合には、各後遺障害について右の算定を行いその合計額を支払う旨が規程されている。

4  原告らの後遺障害

(一) 原告和江について

原告和江は、本件事故による後遺障害として腰椎の変形、骨移植のため骨盤の変形、跛行、右膝の軽度の運動制限並びに右大腿部(瘢痕の長さ約三七センチメートル)、右臀部及び腰に手術創の瘢痕が残ったが、右後遺障害は別表第二の6(3)の「脊柱に奇形を残すとき(一五パーセント)」及び同7(2)の「一腕又は一脚の三大関節中の二関節又は三関節の機能を全く廃したとき(五〇パーセント)」に該当するから、同原告の後遺障害補償金は合計九七五万円になるところ、同原告は被告から後遺障害補償金として既に三〇〇万円の支払を受けたので、未払の後遺障害補償金は六七五万円となる。

(二) 原告京子について

原告京子は、本件事故による後遺障害として右鎖骨偽関節、右肩周辺の疼痛及び庄痛並びに右肩部に長さ約七センチメートルの手術創の瘢痕が残ったが、右後遺障害は別表第二の6(3)の「脊柱に奇形を残すとき(一五パーセント)」及び同7(2)の「一腕又は一脚の三大関節中の二関節又は三関節の機能を全く廃したとき(五〇パーセント)」に該当するから、同原告の後遺障害補償金は合計九七五万円になる。

(三) 原告明美について

原告明美は、本件事故による後遺障害として頸椎の運動障害、頸部の知覚鈍麻、右股関節の機能障害、右下肢について約二・五センチメートルの短縮、墜下性跛行並びに左前頸部(瘢痕の長さ約八センチメートル)、右大腿外側(瘢痕の長さ約二〇センチメートル)及び大転子部(瘢痕の長さ約五センチメートル)に手術創の瘢痕が残ったが、右後遺障害は別表第二の6(2)の「脊柱に運動障害を残すとき(三〇パーセント)」及び同7(4)の「一腕又は一脚の機能に障害を残すとき(五パーセント)」に該当するから、同原告の後遺障害補償金は合計五七五万円になる。

(四) 原告澄江について

原告澄江は、本件事故による後遺障害として右尺骨神経領域の神経麻痺、握力の低下、右肩関節痛並びに右腕及び右手の痛みとしびれが残ったが、右後遺障害は別表第二の6(2)の「脊柱に運動障害を残すとき(三〇パーセント)」及び同7の(4)「一腕又は一脚の機能に障害を残すとき(五パーセント)」に該当するから、同原告の後遺障害補償金は合計五七五万円になる。

5  よって、原告和江、同京子、同明美及び同澄江は被告に対し、本件約款の特別補償規程に基づく後遺障害補償金として、原告和江につき六七五万円、同京子につき九七五万円、同明美及び同澄江につき各五二五万円並びにこれらに対する本件事故の日の翌日である昭和六一年二月二五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(主催旅行契約の成立)の事実は認める。

2  同2(事故の発生)の事実は認める。

3  同3(本件特別補償規程)の事実は認める。

4  同4(原告らの後遺障害)の事実について

(一) 同4(一)(原告和江について)の事実のうち、原告和江に後遺障害として腰椎の変形、骨移植のため骨盤の変形、跛行、右膝の軽度の運動制限並びに右大腿部(瘢痕の長さ約三七センチメートル)、右臀部及び腰に手術創の瘢痕が残ったことは認める。右後遺障害のうち、腰椎の変形は別表第二の6(3)の「脊柱に奇形を残すとき(一五パーセント)」に跛行及び右膝の軽度の運動制限は同7(4)の「一腕又は一脚の機能に障害を残すとき(五パーセント)」に右大腿部の手術創の瘢痕は同5(2)の「外貌に醜状を残すとき(三パーセント)」にそれぞれ該当するものである。跛行及び右膝の軽度の運動制限が同7(2)の「一腕又は一脚の三大関節中の二関節又は三関節の機能を全く廃したとき(五〇パーセント)」に該当する旨の主張は争う。

(二) 同4(二)(原告京子について)の事実のうち、原告京子に後遺障害として右鎖骨偽関節、右肩周辺の疼痛及び圧痛並びに右肩部に長さ約七センチメートルの手術創の瘢痕が残ったことは認める。右後遺障害は、別表第二の各号のいずれにも該当しないが、本件特別補償規程七条三項(別表第二の各号に掲げられていない後遺障害に対しては、身体の障害の程度に応じ、かつ、別表第二の各号の区分に準じ後遺障害補償金の支払額を決定する旨の規程)により局部に神経症状を残すものとして四パーセント相当の後遺障害であることを認めるが、その余の主張は争う。

(三) 同4(三)(原告明美について)の事実のうち、原告明美に後遺障害として頸椎の運動障害、頸部の知覚鈍麻、右股関節の機能障害、右下肢について約二・五センチメートルの短縮、墜下性跛行並びに左前頸部(瘢痕の長さ約八センチメートル)、右大腿外側(瘢痕の長さ約二〇センチメートル)及び大転子部(瘢痕の長さ約五センチメートル)に手術創の瘢痕が残ったことは認める。右後遺障害のうち、右股関節の機能障害、右下肢短縮及び墜下性跛行は別表第二の7(4)の「一腕又は一脚の機能に障害を残すとき(五パーセント)」に該当するものである。頸椎の運動障害及び頸部の知覚鈍麻は別表第二の各号には該当しないが本件特別補償規程七条三項により局部に神経症状を残すものとして四パーセント相当の後遺障害であることを認めるが、その余の主張は争う。なお、右股関節の機能障害、右下肢短縮及び墜下性跛行については右の限度にとどまらず七パーセント相当の後遺障害であり、左前頸部及び右大腿外側の手術創の瘢痕についてはそれぞれ別表第二の5の(2)「外貌に醜状を残すとき(三パーセント)」に該当するものである。

(四) 同4(四)(原告澄江について)の事実のうち、原告澄江に後遺障害として右尺骨神経領域の神経麻痺、握力の低下、右肩関節痛並びに右腕及び右手の痛みとしびれが残ったことは認める。右後遺障害は、別表第二の各号のいずれにも該当しないが、本件特別補償規程七条三項により局部に神経症状を残すものとして四パーセント相当の後遺障害であることを認めるが、その余の主張は争う。

三  抗弁

1  被告は原告和江に対し、別表第二の6(3)の後遺障害補償金として二二五万円、同7(4)の後遺障害補償金として七五万円を各支払ったほか、同5(2)の後遺障害補償金として四五万円を支払った。

2  被告は、原告京子に対し四パーセント相当の後遺障害補償金として六〇万円を支払った。

3  被告は原告明美に対し、四パーセント相当の後遺障害補償金として六〇万円、七パーセント相当の後遺障害補償金として一〇五万円を各支払ったほか、別表第二の5(2)の後遺障害補償金として九〇万円を支払った。

4  被告は原告澄江に対し四パーセント相当の後遺障害補償金として六〇万円を支払った。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実1ないし4の事実は認める。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一  第一事件及び第二事件原告らの主位的請求並びに第三事件原告らの請求について

一  請求原因1(主催旅行契約の成立)及び同2(事故の発生)の各事実についてはすべて当事者間に争いがない。

二  同3(事故の状況)の事実について判断する。

1  同3(一)(道路状況)の事実のうち、本件事故現場付近における本件道路は、連続して湾曲していたこと、本件バスの進行方向右側は崖になっていたがガードレールは設置されていなかったこと、本件事故現場付近において本件事故前の二年間に車両の転落事故が二度発生したこと、本件事故当時は霧雨が降っており視界が良好ではなかったこと、路面がぬかるみ状態になっていたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、本件道路は、日本の国道に相当する道路であったこと、本件事故現場付近においては幅員約七・四メートル、片側一車線の二車線道路で中央線が引かれていたこと、アスファルト舗装されていたが、付近で道路の拡幅工事が行われていたため土が路面上に堆積し、霧雨によってぬかるみ状態になっていたこと、勾配はあまりなくほぼ平坦であったこと、工事中であることを知らせる標識、制限速度が時速二〇キロメートルであることの標識、連続して湾曲している旨及び路面がすべりやすい旨を知らせる各標識が設置されていたこと、本件事故現場付近の崖沿いの部分に車両の転落を防止するため高さ約六〇センチメートルの赤色の円錐型危険標識、セメント製の柱及び赤旗を連続して吊り下げた縄が設置されていたこと、本件事故当時視界は良好ではなかったが、本件事故現場を通る定期路線バス等は平常どおり運行されていたこと、本件事故現場付近においては本件事故前に一〇数回の事故が発生していたが、その事故内容は不明であったこと、台湾においては車両は道路の右側を通行すべきであるとされていることが認められる。

2  同(二)(本件バスの整備状況)について判断するに、〈証拠〉によれば、本件バスは一九八二年製の西ドイツのベンツ社製の四五人乗り大型観光バスであったこと、後部の窓ガラスの一部にひびがあったこと、タイヤの溝は前後輪とも魔耗した状態ではなかったこと、台湾の法令による日本の車検に相当する手続きを済ませていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  同三(事故原因)の事実のうち、李運転手に原告ら主張の注意義務があること、李運転手がハンドル操作を的確にしないで本件バスを運転して本件事故現場を進行した過失により本件事故を惹起させたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、本件事故は、李運転手が、対向車を避けようとして道路の右端に本件バスの進路を変えた際、ハンドルを切り過ぎたため本件バスが路外に逸脱して転落して生じたものであり、右転落に前示の天候及び路面の状態が寄与したものであることを認めることができるが、李運転手が本件バスの速度を出し過ぎていた旨の原告増野明美本人の供述部分は前掲証拠と対比して措信し難く、他に李運転手に本件バスの速度の出しすぎ又は前方不注視があったことを認めるに足りる証拠はない。

三  同4(被告の責任)及びこれに対する被告の主張について判断する。

1  旅行業法(以下「法」という。)、同法施行規則(以下「規則」という。)及び本件約款に、請求原因4(二)(1)、同(三)(1)、被告の主張1(一)、(二)に各主張のとおりの規定があることは、当事者間に争いがない。

2(一)  原告らは、被告は旅客運送人として本件事故によって生じた原告らの損害を賠償すべき責任がある旨主張するので、先ずこの点について判断することとする。

(1) 法は、主催旅行及び主催旅行契約について定義規定を設け(二条三項、四項)旅行業者が主催旅行を実施する場合に、旅行者に対し運送サービスの確実な提供を確保するための措置を講ずべき義務のあることを定めている(一二条一〇、規則三二条)が、主催旅行契約の法的性質又は旅行サービスの瑕疵に基づいて旅行者に生じた損害に関する旅行業者の契約責任については、直接規定を設けることなく、旅行業約款に委ねるとの立場を採っていると解される(法一二条の二、一二条の三、規則二三条四号、五号)。

(2) 本件契約は、本件約款に基づいて締結されたものであるが、本件約款は法一二条の三に基づいて定められた標準旅行業約款(昭和五八年運輸省告示五九号、以下「標準約款」という。)と同一内容のものである(以上の点は前示のように当事者間に争いがない。)ところ、標準約款の制定過程に照らすと、同約款は、主催旅行契約につき、旅行業者は、自ら旅行サービスを提供するものではなく、旅行サービスの提供について手配をする地位にある契約とするのが妥当であり、旅行サービスの瑕疵により旅行者の生命・身体・財産に生じた損害については、旅行業者が契約責任を負う場合を限定する反面、一定の限度において旅行業者の責任の有無にかかわらず補償させるのが妥当であるとし、そのための保険を開発すべきであるとの基本的考えに立って制定されたものであり、この考えが標準約款三条、二一条、二二条として規定されるに至ったものである。そして、右標準約款の制定当時主催旅行契約を請負類似の契約とする立法例のあることが知られていたが、右各規定はこのような立法例に従わないとの考え方に立って設けられたことが明らかである。

(3) 主催旅行契約における旅行サービスは、運送、宿泊等種々のサービスからなり、そのすべてを一旅行業者が旅行者に提供することは実際上不可能であるから、旅行業者は旅行サービスの全部又は一部を運送機関、宿泊機関等の専門業者の提供するところに依存せざるを得ないこと、旅行業者は、実際に旅行サービスを提供する運送機関、宿泊機関等の専門業者を必ずしも支配下においているわけではないから、これらの専門業者に対しては、個々の契約を通じて旅行者に提供させるサービスの内容を間接的に支配するほかはないこと、特に当該主催旅行の目的地が海外である場合には、これらの専門業者が外国政府の統治下にあるため、旅行者に提供させるサービスに関する支配は一層制約を受けることとなること等を考慮すると、前示の標準約款制定の基本的考え及びこれに基づく前記諸規定は、少なくとも海外を目的地とする主催旅行契約に関する限り、不合理であるとはいえないものというべきである。

(4) そして、標準約款の前記三条及び二一条の規定に照らすと、旅行業者は、旅行者と主催旅行契約を締結したことのみによって、旅行者に対し、主催旅行の運送サービスにつき、旅客運送人たる契約上の地位に立たないものというべきである。したがって、本件バスの運送につき被告が旅客運送人たる地位に立つことを前提として、本件事故につき旅客運送人としての責任を負うべきである旨の原告らの前記主張は、採用することができないものというべきである。

(二)  原告らは、本件旅行者は、本件バスによる旅行につき、被告を旅客運送人として契約を締結したものであり、訴外来福又は訴外書華と旅客運送契約を締結したことはない旨主張する。

本件契約が本件約款に基づいて締結されたものであることは、前示のように当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると、被告は、本件旅行者と本件契約を締結するに当たって、本件旅行者に対し、本件契約が本件約款に基づいて締結されるものである旨及び本件約款の概要を記載した書面を交付し、かつまた、本件旅行者が本件約款を知りうる状態においていたことが認められるから、本件旅行者と被告との間の契約内容は、原告らの本件約款の個々の規定についての認識の有無にかかわらず、本件約款の規定するところに従って定めるべきものであるところ、本件旅行中の台湾におけるバス行程の部分については、被告が手配代行者である訴外永泰を通じて訴外来福にバスによる運送を依頼し、訴外来福は訴外書華に右運送の下請をさせたものである(この点は当事者間に争いがない。)が、右は、被告が、本件約款三条及び四条に基づき、本件契約の履行として、訴外永泰を手配代行者として、被告の名において本件旅行者のためにその費用のもとに、訴外来福と右台湾におけるバス行程の部分につき旅客運送契約を締結し(右契約の準拠法及びその法の下における右契約の成否、効力の有無等は、ここで問題とする要はない。)、これに基づき本件旅行者が本件バスに乗車することができることとなったものというべきであるから、原告らの右主張も採用することはできない。

3  原告らは、本件事故は被告が本件契約に基づいて本件旅行者に対して負っていた安全確保義務の懈怠により生じたとし、被告において右義務の懈怠がなかったことを主張・立証すべきである旨主張する。

(一) 旅行は、旅行者の生命、身体、財産等の安全が図られうる条件のもとで実施されるべきものであるが、その計画・立案の段階から終了までの間に相当の時間的経過があり、また、旅行者の場所的移動を伴うため、旅行者が自然災害、病気、犯罪若しくは交通事故等に遭遇する危険を包含しており、特に海外旅行の場合には、当該外国の風俗・習慣、生活水準又は社会・経済体制等が日本のそれらと相違し、また、危険若しくは安全性についての考えや水準も異なるため、旅行に伴う危険は国内旅行の場合に比し一層高度なものとなることもあるのみならず、いったん事故があったときには、被害者が救護又は法的救済を受けることが困難若しくは事実上不可能であることもありうる等の特殊性があること、(2)主催旅行契約においては、旅行の目的地及び日程、旅行サービスの内容等の主催旅行契約の内容(以下「契約内容」という。)は旅行業者が一方的に定めて旅行者に提供し、旅行代金も旅行業者がその報酬を含めて一方的に定めるものであり、旅行者は、契約内容や旅行代金について指示し若しくは修正を求める余地がなく、提供された契約内容・旅行代金の額を受け入れるか否かの自由しかないのが通常であること、(3)旅行業者は、旅行についての専門業者であり、旅行一般についてはもとより、当該主催旅行の目的地の自然的、社会的諸条件について専門的知識・経験を有し又は有すべきものであり、旅行者は旅行業者が右の専門的知識・経験に基づいて企画、実施する主催旅行の安全性を信頼し、主催旅行契約を締結するものであるといえること等を考えると、旅行業者は、主催旅行契約の相手方である旅行者に対し、主催旅行契約上の付随義務として、旅行者の生命、身体、財産等の安全を確保するため、旅行目的地、旅行日程、旅行行程、旅行サービス機関の選択等に関し、あらかじめ十分に調査・検討し、専門業者としての合理的な判断をし、また、その契約内容の実施に関し、遭遇する危険を排除すべく合理的な措置をとるべき注意義務(以下「安全確保義務」という。)があるものというべきである。

(二) 本件約款が、(1)二一条一項本文において、旅行業者が主催旅行契約の履行に当たり旅行業者又はその手配代行者の故意又は過失により旅行者に損害を与えたときは、その損害を賠償すべき責任を負う旨規定していること、(2)一八条において、旅行業者は、その主催した旅行の安全かつ円滑な実施を確保するために、〈1〉旅行者が旅行サービスを受けることができないおそれがあると認められるときには、主催旅行契約に従った旅行サービスの提供を受けられるために必要な措置を講じ、〈2〉契約内容を変更するときには、その変更の幅ができる限り小さくなるよう努力すべき義務を負う旨規定していること、(3)一九条一項において、旅行業者は旅行の内容により添乗員を同行させて一八条に定める旅程管理の業務を行わせることがある旨、二〇条において、旅行者は、旅行中添乗員の誘導の下に団体で行動するときは、旅行を安全かつ円滑に実施するための添乗員の指示に従わなければならない旨規定していること、(4)一六条一項において、旅行業者は、旅行者が旅行を安全かつ円滑に実施するための添乗員の指示に従わないなど団体行動の規律を乱し、当該旅行の安全かつ円滑な実施を妨げるときには、右旅行者との主催旅行契約を解除することがある旨規定していること、(5)二一条二項において、旅行者が旅行業者又はその手配代行者の管理外の事由により損害を被ったときは、旅行業者又はその手配代行者の故意又は過失が証明されたときを除き、旅行業者はその損害を賠償すべき責任を負わないとし、同項一号ないし七号には右管理外の事由として、〈1〉天災地変、戦乱、暴動又はこれらのために生ずる旅行日程の変更若しくは旅行の中止、〈2〉運送・宿泊機関の事故若しくは火災又はこれらのために生ずる旅行日程の変更若しくは旅行の中止、〈3〉日本又は外国の官公署の命令、外国の出入国規制又は伝染病による隔離、〈4〉自由行動中の事故、〈5〉食中毒、〈6〉盗難、〈7〉運送機関の遅延、運送機関の不通又はこれらによって生ずる旅行日程の変更若しくは目的地滞在時間の短縮を例示していることは、いずれも当事者間に争いがない。

本件約款の右各規定は、旅行業者である被告が主催旅行契約を締結することによって旅行者に対して負うべき前記安全確保義務を明確化、具体化したものと解すべきである。

(三) ところで、原告らが被告に対し、本件事故が被告の右安全確保義務の懈怠に基づいて生じたものであることを理由として、損害の賠償を求めるためには、被告が懈怠したとする安全確保義務の具体的内容を特定して主張することを要するものと解すべきところ、原告らは、右義務の具体的内容として被告の手配及び旅程管理上の義務を主張しているが、その余の義務については、具体的に特定していないから、判断を加える要はなく、被告の手配及び旅程管理上の義務違反の有無については、次項において判断することとする。

4  原告らは、本件事故は被告の手配及び旅程管理上の義務違反に基づいて生じたものである旨主張するので、この点について判断することとする。

(一) 旅行業者が主催旅行契約の相手方である旅行者に対し、安全確保義務を負うものと解すべきであることは前示のとおりであり、本件約款二一条は、旅行業者が主催旅行契約を企画・立案するに当たっては、当該旅行の目的地及び日程、移動手段等につき、また、契約内容の実施に当たっては、旅行サービス提供機関等の選択及びこれらと締結を図る旅行サービス提供契約につき、旅行者の生命、身体、財産等の安全を確保するため、旅行について専門業者としてあらかじめ十分な調査・検討を経たうえ合理的な判断及び措置を採るべき注意義務のあることを示すと共に、旅行業者の旅行サービス提供機関に対する統制には前記のように制約があること等を考慮し、旅行業者の責任の範囲を限定した規定と解するのが相当であり、当該主催旅行の目的地が外国である場合には、日本国内における平均水準以上の旅行サービスと同等又はこれを上回る旅行サービスの提供をさせることが不可能なことがありえ、また、現地の旅行サービス提供機関についての調査にも制約がありうるから、特に契約上その内容が明記されていない限り、旅行業者としては、日本国内において可能な調査(もとより、当該外国の旅行業者、公的機関等の協力を得てする調査をも含む。)・資料の収集をし、これらを検討したうえで、その外国における平均水準以上の旅行サービスを旅行者が享受できるような旅行サービス提供機関を選択し、これと旅行サービス提供契約が締結されるよう図るべきであり、更には、旅行の目的地及び日程、移動手段等の選択に伴う特有の危険(たとえば、旅行目的地において感染率の高い伝染病、旅行日程が目的地の雨期に当たる場合の洪水、未整備状態の道路を車で移動する場合の土砂崩れ等)が予想されるときには、その危険をあらかじめ除去する手段を講じ、又は旅行者にその旨告知して旅行者みずからその危険に対処する機会を与える等の合理的な措置を採るべき義務があることを定めた規定と解すべきである。したがって、海外旅行において旅行者が移動手段である運送機関の事故に基づき損害を被った場合において、旅行業者が右の各義務を尽くしたとすればこれを回避しえたといえるときには、右義務を懈怠した旅行業者は、主催旅行契約上の義務の履行に当たり過失があったものというべきであるから、同条二項但書に基づき同条一項本文所定の損害賠償責任を免れないものというべきである。また、本件約款一八条は、主催旅行の主催者として旅行業者が負うべき付随義務の一つとしての旅程管理上の義務を例示したものと解するのが相当である。

(二) 右の立場にたって、原告らの前記主張について検討することとする。

(1) 旅行行程設定に関する過失について

被告が、主催旅行の実施に先立って、旅行行程の道路状況の確認及び所要時間の検討等をして安全な旅行行程を設定すべき注意義務を負担することは当事者間に争いがなく、右義務は前示の安全確保義務に含まれるものと解すべきである。

そこで、本件事故現場を含む道路をバス行程とした本件旅行行程の設定に右義務の違反があるかどうかを検討するに、〈証拠〉によれば、本件旅行の旅程の概略は、一日目(昭和六一年二月二二日)は東京羽田空港から空路台湾の高雄空港へ、同空港から本件バスに乗車し高雄市内を見学して宿泊先のホテルヘ、二日目(同月二三日)は、本件バスで台南に向かい、同市内を観光した後日月潭に行き観光、三日目は本件バスで台北に向かい、特急列車に乗り替えて花蓮へ、四日目は花蓮市内を観光した後空路台北へ、五日目は台北市内を観光した後空路羽田空港に帰国するというものであったこと、右旅行行程は日本の他の旅行業者が実施している台湾観光旅行と概ね同じであったこと、被告は、本件旅行と同一日程の主催旅行を昭和五九年九月から週に二回、昭和六〇年一〇月から週に四回の割合で定期的に企画・募集していたこと、右旅行行程の立案・設定に当たって被告の従業員三名を現地に派遣して、旅行行程中のバス行程部分の道路を普通乗用自動車で走行して道路状況の確認及び所要時間の検討等を現実に行い、安全性に問題がないことを確認して本件道路を含む旅行行程を確定したこと、台湾では日月潭は著名な観光地であって台湾全周をうたった本件旅行からこれを外し難かったこと、日月潭は山間部に存するために行程の選択は極めて限られており、被告を初めとして日本及び各国の旅行業者が計画・実施している台湾旅行のほとんどが本件道路をバスで通行する旅程となっていたこと、本件道路は日月潭と台中を結ぶ交通の頻繁な幹線道路であって、一日に上下合わせて約二二〇本の官営及び民営の定期バスが運行されていたこと、被告は右の事実を調査したうえで本件旅行行程を確定したものであること、バス行程中においてはみやげ物店に立ち寄る回数も原則として大きな都市毎に一回としていたことが認められる。

右認定の事実によれば、被告は前示の旅行業者に要求される調査義務を尽くしたうえで本件事故現場を含む道路を本件旅行行程として設定したといえるから、前示安全な旅行行程を設定すべき義務に違反したとはいえないものというべきであり、本件事故現場付近の道路がたまたま本件事故当時前記二1で認定したような状況にあったとしても、右判断を左右するものではない。

(2) 運送サービス提供機関選定上の過失について

被告が主催旅行の実施に当たり安全な運送サービス提供機関を選定すべき注意義務を負担することは、その義務の内容を除いて当事者間に争いがなく、右義務は前示の安全確保義務に含まれると解すべきであるが、運送サービス提供機関の選定について旅行業者が負う右義務は、前示のとおり現地の運送サービス提供機関について諸制約があることからすれば、原則として、旅行先の国における法令上資格ある運送機関と運転手を手配し、かつ、法令上運行の認められた運送手段を選定することで足りるというべきである。

右の観点から訴外書華及び李運転手が本件バス行程を担当した点に右義務の違反があるかどうかを検討する。

被告が手配代行者である訴外永泰を通じて訴外来福に本件旅行のバス行程の運行を依頼したこと、訴外来福は被告及び訴外永泰に無断で訴外書華に右運行を下請けさせたこと、そのため訴外書華及び李運転手が本件旅行のバス行程を担当したことは、前示のように当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、訴外書華は高雄市から大型バス貸出業の営業許可を受けていたこと、李運転手は、職業運転手の免許を有し、高雄市汽車職業運転手組合にも所属して本件バスを運転する資格を有していたこと、また、本件事故前の勤務状態も良好であり、事故を起こしたことはなかったこと、台湾においては、現地の手配代行者を通じて運送会社にバス運送を委託した場合に、その会社が手配代行者に通知することなく常日頃下請け的に用いている他社のバスを配車することは広く慣行的に行われていたことが認められ、本件バスに走行をするうえで安全上問題となるような点のなかったことは、前記二2で認定したとおりである。

右の事実によれば、訴外書華及び李運転手が本件旅行のバス行程を担当したことについて、被告が前示の安全な運送サービス提供機関を選定すべき義務に違反したとはいえないものというべきである。

(3) 添乗員の過失について

添乗員が、旅行業者の旅行者に対する安全確保義務の履行補助者として、当該旅行の具体的状況に応じ、旅行者の安全を確保するために適切な措置を講ずべき義務を負うものであることは、その具体的内容を除いては、当事者間に争いがないところ、当該旅行行程が外国におけるバスによるものである場合、当該外国における交通法規、使用されているバスの車種等がわが国のそれらと同一ではないこと、バスの整備及び運転が整備士及び運転手等の専門的知識・技術を有する者によって行われるべきものであること、添乗員は旅行業法上かかる専門的知識・技術を修得することが資格要件とされていないこと(法一二条の一一、規則三三条ないし三五条等)、添乗員がバスの走行中に運転手に注意・指示等を与えることはかえって事故を発生させる原因となりかねないこと等を考慮すると、添乗員の右義務は、当該バスが車体の老朽又は著しく摩耗したタイヤが装着ウれている等外観からこれを当該旅行行程に使用することが危険であると容易に判断しうるときに右バスを使用させない措置を採ること、酩酊運転、著しいスピード違反運転又は交通規制の継続的無視のような乱暴運転等事故を惹起する可能性の高い運転がされているときにかかる運転をやめさせるための措置を採ること、台風や豪雨等の一見して危険とわかる天候となったときに旅程変更の措置を採るべきことに尽きるものと解するのが相当である。

そして、前記二の1ないし3で認定した本件事故現場付近の本件道路の状況、本件バスの状況及び本件事故の状況に係る事実関係に照らすと、小山又は呉が李運転手に対し、本件バスの運転をやめさせるための措置を講ずべき義務を負うに至ったとまでいえないし、また、小山又は呉が前記のその余の措置を講ずべき義務を負うに至ったともいえないものというべきである。

3  以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、第一事件及び第二事件原告らの主位的請求並びに第三事件原告らの請求は理由がない。

第二  第一事件及び第二事件原告らの予備的請求について

一  請求原因1(主催旅行契約の成立)の事実、同2(事故の発生)の事実及び同3(本件特別補償規程)の事実についてはすべて当事者間に争いがない。

二  そこで、原告らの後遺障害の内容及び程度並びに抗弁について判断する。

1  原告和江について

(一) 請求原因(一)(原告和江について)の事実及び抗弁1の事実のうち、原告和江に本件事故による後遺障害として腰椎の変形、骨移植のため骨盤の変形、跛行、右膝の軽度の運動制限並びに右大腿部、右臀部及び腰に手術創の瘢痕が残ったこと、右大腿部の瘢痕の長さが約三七センチメートルであること、被告が同原告に対し、腰椎の変形が別表第二の6(3)の「脊柱に奇形を残すとき(一五パーセント)」に該当し、跛行及び右膝の軽度の運動制限が同7(4)の「一腕又は一脚の機能に障害を残すとき(五パーセント)」に該当し、右大腿部の瘢痕が同5(2)の「外貌に醜状を残すとき(三パーセント)」に該当するとして、別表第二の6(3)の後遺障害補償金二二五万円、同7(4)の後遺障害補償金七五万円及び同5(2)の後遺障害補償金四五万円を各支払ったことは、当事者間に争いがない。

(二) 原告和江は、跛行及び右膝の軽度の運動制限が別表第二の7(2)にいう「関節の機能を全く廃したとき」に該当する旨主張する。

しかし、「関節の機能を全く廃したとき」とは関節の完全強直又はこれに近い状態にある場合をいうものと解すべきところ、同原告は、本人尋問において、松葉杖を使用しなくとも一〇分程度であれば歩くことができる旨を供述しており、〈証拠〉によっても同原告の右膝の関節が完全強直又はこれに近い状態にあることを認めることはできず、他に同原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

(三) 原告和江の前記後遺障害のうち、腰椎の変形が別表第二の6(3)の「脊柱に奇形を残すとき(一五パーセント)」に該当すること、跛行及び右膝の運動制限が同7(4)の「一腕又は一脚の機能に障害を残すとき(五パーセント)」に該当すること及び右大腿部の瘢痕が同5(2)の「外貌に醜状を残すとき(三パーセント)」に該当することは被告の認めるところであるが、同原告の前記後遺障害が右を超える別表第二の後遺障害のいずれかに該当するものと認めるに足りない。

(四) そうすると、被告は原告和江に対し、別表第二の6(3)の後遺障害補償金二二五万円、同7(4)の後遺障害補償金七五万円及び同5(2)の後遺障害補償金四五万円を支払うべき義務を負うものというべきところ、右各後遺障害補償金が支払われたことは当事者間に争いがないから、同原告の予備的請求は理由がないものというべきである。

2  原告京子について

(一) 予備的請求原因4(二)(原告京子について)の事実及び抗弁2の事実のうち、原告京子に本件事故による後遺障害として右鎖骨偽関節、右肩周辺の疼痛及び圧痛並びに右肩部に長さ約七センチメートルの手術創の瘢痕が残ったこと、被告が同原告に対し、右後遺障害が四パーセント相当の後遺障害に該当するとして後遺障害補償金六〇万円の支払をしたことは当事者間に争いがない。

(二) 原告京子は、右後遺障害が別表第二の6(3)の「脊柱に奇形を残すとき」及び同7(2)の「関節の機能を全く廃したとき」に該当する旨主張する。

しかし、右後遺障害は、脊柱に関するものではなく、したがって、「脊柱に奇形を残すとき」に該当しないことは主張自体から明らかである。また、前示のとおり「関節の機能を全く廃したとき」とは関節の完全強直又はこれに近い状態にある場合をいうものと解すべきところ、〈証拠〉によっても同原告の右肩の関節が完全強直又はこれに近い状態にあることを認めることはできず、他に同原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

(三) 原告京子の前記後遺障害が局部に神経症状を残すものとして四パーセント相当の後遺障害に該当することは被告の認めるところであるが、同原告の前記後遺障害が右を超える別表第二の後遺障害のいずれかに該当するものと認めるに足りない。

(四) そうすると、被告は原告京子に対し、四パーセント相当の後遺障害補償金六〇万円を支払うべき義務を負うべきところ、右後遺障害補償金が支払われたことは当事者間に争いがないから、同原告の予備的請求は理由がないものというべきである。

3  原告明美について

(一) 予備的請求原因4(三)(原告明美について)の事実及び抗弁3の事実のうち、原告明美に本件事故による後遺障害として頸椎の運動障害、頸部の知覚鈍麻、右股関節の機能障害、右下肢について約二・五センチメートルの短縮、墜下性跛行並びに左前頸部(瘢痕の長さ約八センチメートル)、右大腿外側(瘢痕の長さ約二〇センチメートル)及び大転子部(瘢痕の長さ約五センチメートル)に手術創の瘢痕が残ったこと、被告が同原告に対し、右後遺障害のうち、頸椎の運動障害及び頸部の知覚鈍麻が四パーセント相当の後遺障害であるとし、右股関節の機能障害、右下肢短縮及び墜下性跛行が別表第二の7(4)の「一腕又は一脚の機能に障害を残すとき(五パーセント)」に該当にとどまらず七パーセント相当の後遺障害であるとし、右前頸部及び右大腿外側の手術創の瘢痕がそれぞれ同5(2)の「外貌に醜状を残すとき(三パーセント)」に該当するとし、右四パーセント相当の後遺障害補償金六〇万円、七パーセント相当の後遺障害補償金一〇五万円、別表第二の5(2)の後遺障害補償金九〇万円を各支払ったことは当事者間に争いがない。

(二) 原告明美は、右頸椎の運動障害が別表第二の6(2)の「脊柱に運動障害を残すとき」に該当する旨主張する。

しかし、「脊柱に運動障害を残すとき」とは運動可能領域が正常可動範囲のほぼ二分の一程度まで制限された状態にある場合をいうものと解すべきところ、〈証拠〉によれば、原告明美の頸椎部の可動範囲は前屈〇度から五〇度、後屈〇度から三五度、右屈〇度から三〇度、左屈〇度から二五度、右回旋〇度から六〇度、左回旋〇度から五〇度であることが認められるが、一般に正常可動範囲は前屈〇度から六〇度、後屈〇度から五〇度、右屈〇度から五〇度、左屈○度から五〇度、右回旋〇度から七〇度、左回旋〇度から七〇度であるとされているから、同原告の頸椎部の可動範囲は正常可動範囲のほぼ二分の一程度まで制限された状態にあると認めることはできないから、同原告の右主張は排斥を免れないものというべきである。

(三) 原告明美の前記後遺障害のうち、頸椎の運動障害及び頸部の知覚鈍麻が四パーセント相当の後遺障害に当たること、右股関節の機能障害、右下肢短縮及び墜下性跛行が別表第二の7(4)の「一腕又は一脚の機能に障害を残すとき」に該当するにとどまらず七パーセント相当の後遺障害に当たること、右前頸部及び右大腿外側の手術創の瘢痕がそれぞれ同5(2)の「外貌に醜状を残すとき(三パーセント)」に該当することは被告の認めるところであるが、同原告の前記後遺障害が右を超える別表第二の後遺障害のいずれかに該当するものと認めるに足りない。

(四) そうすると、被告は原告明美に対し、四パーセント相当の後遺障害補償金六〇万円、七パーセント相当の後遺障害補償金一〇五万円及び別表第二の5(2)の後遺障害補償金九〇万円を支払うべき義務があるところ、右各後遺障害補償金が支払われたことは当事者間に争いがないから、同原告の予備的請求は理由がないものというべきである。

4  原告澄江について

(一) 予備的請求原因4(四)(原告澄江について)の事実及び抗弁4の事実のうち、原告澄江に本件事故による後遺障害として右尺骨神経領域の神経麻痺、握力の低下、右肩関節痛並びに右腕及び右手の痛みとしびれ等が残ったこと、被告が同原告に対し、右後遺障害が四パーセント相当の後遺障害に当たるとして後遺障害補償金六〇万円の支払をしたことは当事者間に争いがない。

(二) 原告澄江は、右後遺障害が別表第二の6(3)の「脊柱に奇形を残すとき」及び同7(4)の「一腕又は一脚の機能に障害を残すとき」に該当する旨主張する。

しかし、右後遺障害が脊柱に関するものではなく、したがって、「脊柱に奇形を残すとき」に該当しないことは主張自体から明らかである。また、「一腕又は一脚の機能に障害を残すとき」とは少なくとも関節の運動可能領域の制限を伴う場合であることが必要であると解すべきところ、〈証拠〉によっても同原告の右上肢の各関節に運動可能領域の制限があることを認めることはできず、他に同原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

(三) 原告澄江の前記後遺障害が四パーセント相当の後遺障害に該当することは被告の認めるところであるが、右後遺障害が右を超える別表第二の後遺障害のいずれかに該当するものと認めるに足りない。

(四) そうすると、被告は原告澄江に対し、四パーセント相当の後遺障害補償金六〇万円を支払うべき義務があるところ、被告が同原告に対し、その支払をしたことは当事者間に争いがないから、同原告の予備的請求は理由がないものというべきである。

第三  結論

以上のとおりであるから、第一事件原告西山和江、同西山京子、同増野明美、及び第二事件原告神山澄江の各主位的請求及び各予備的請求並びに第一事件原告西山章、同西山護、同増野康男、第二事件原告神山要蔵及び第三事件原告らの各請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柴田保幸 裁判官 原田 卓 裁判官 竹野下喜彦)

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